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二度の地震被害を乗り越え、飯坂温泉の老舗旅館「松島屋 桃香」が再始動!
多様なお客様が安心して過ごせる「変幻自在の宿」

2025年6月、飯坂温泉の老舗旅館「松島屋旅館」が、全館リニューアルを経て「松島屋 桃香(まつしまや ももか)」として新たな一歩を踏み出しました。
源泉かけ流しの温泉、ゆったり楽しめる部屋食スタイル、ペット専用フロアの設置など、誰にとっても心地よい滞在を提案します。
本記事では、新しく生まれ変わった「松島屋 桃香」の魅力をひもときながら、飯坂温泉の地域と未来を見据えた新たな挑戦にも迫ります。
目次
あらゆるお客様に寄り添う「変幻自在の宿」への進化
飯坂温泉で190年の歴史を重ねてきた老舗「松島屋旅館」は、長きにわたって多くのお客様に親しまれてきました。しかし、2021年と2022年に相次いで発生した福島県沖地震により、建物が大きな被害を受け、2022年10月から長期休業を余儀なくされます。
「もう一度、お客様に安心して泊まっていただきたい」。女将・高橋美奈子さんの強い想いのもと、建物の骨組みだけを残して全面的な建て替えを決断。そして2025年春、「松島屋 桃香」として再出発を果たしました。
新たな宿のコンセプトは「多様なお客様が安心して過ごせる“変幻自在の宿”」。小さなお子さま連れ、ペット同伴、障がいのある方、ご高齢の方、海外からのお客様、ひとり旅に至るまで、あらゆる立場の方にとって心地よく、開かれた空間を目指しています。
自分らしさで選べる楽しさと、福島を味わうフリードリンクコーナー

建物は地上4階・地下3階建て
館内に足を踏み入れると、まず目を引くのが開放感のあるロビー。ここでは、色とりどりの浴衣や下駄をはじめ、シャンプーや化粧水、スリッパ、赤ちゃん用バス用品など、好みに合わせて選べるアメニティが用意されています。


浴衣のサイズは子ども用から5Lまで幅広く揃っています。浴衣がはだけやすくて苦手という方には、上下セパレートの作務衣タイプもご用意。
売店は設けていないそうで、その理由を伺うと「飯坂温泉のまちを歩き、魅力にふれてほしいから」とのこと。お好みの浴衣に下駄を合わせて、飯坂温泉街の散策に出かけるのもおすすめです。
ロビーフロアの奥にある「茶房 matsumomo(まつもも)」には、フリードリンクコーナーとしてアイスキャンディー、ソフトドリンク、福島の地酒サーバーなどを常設しています。全国新酒鑑評会で金賞を受賞した福島の地酒や、県産果物を使ったクラフトドリンクも楽しめます。

宿泊客に開かれたフリードリンクスペース

地元の果物を使ったシロップを炭酸水で割ったクラフトコーラ(ゆずとりんご)
なんと宿泊者は追加料金なしで何度でも利用が可能。街歩きにちょっと疲れたら少し早めに松島屋 桃香に戻って、昼呑みをスタートさせちゃうのもおすすめです。
多様なニーズに応える全12室の客室

ペットと一緒に泊まれる和洋室のファミリールーム
松島屋 桃香の客室は全12室。すべてのお部屋で内装や家具の設えが異なり、訪れるたびに新鮮な楽しみがあります。全室に空間除菌脱臭機「ジアイーノ」や加湿空気清浄機を完備。ベッドはシモンズやテンピュール製のマットレスを採用しています。
館内は段差を極力なくしたバリアフリー設計で、赤ちゃんからシニア世代まで、どんな方でも安心して滞在できます。

折り畳み式のペット用ケージを各部屋に完備

おむつバケツ、トイレシート、ビニール袋、食器類などが揃う
2階と3階はペット専用フロア。ペット専用客室では、ペット用ケージやおむつバケツ、トイレシート、ビニール袋、食器類などもそろっており、愛犬・愛猫と一緒の旅行も安心です。
ベッドに防水シーツを敷くなど、粗相への配慮も万全です。

和洋室ツインルーム。ベッドはセミダブルでゆったり
6階・7階は一般客室のフロア。一般客室には、離乳食など食品の温めに便利な電子レンジやおむつバケツなど、小さなお子さま連れにうれしい設備がそろっています。ヨギボーのビーズクッションがあるお部屋では、お子さまもきっと大はしゃぎですね。

車いすのまま入れる広々としたトイレ

電子レンジは離乳食の温めにも便利
ほかにも、3〜4人のご家族みんなでフラットに並べた3枚のマットレスでごろ寝できるレイアウトのお部屋や、寝起きが大変なご高齢のご夫婦には電動ベッド付きの客室、車いす利用の方には広々とした多目的トイレを備えたバリアフリー対応の客室をご用意しています。
予約の際にお客様のご希望を聞き取り、最適な部屋を提案。誰にとっても快適に過ごせるよう、細やかな心配りが随所に行き届いています。
部屋でゆったり、福島の味をひとりじめ

夕食の一例
松島屋 桃香では、すべてのお食事をお部屋にご用意。ほかのお客様の目を気にせず、気兼ねなく自分たちのペースで食事を楽しめるのが魅力です。グループでの利用など、人数が多い場合には14名程度までの会場食にも対応しています。
夕食は、常磐ものの刺身や焼き物、釜飯、鍋など、季節ごとの地元食材を活かした献立が中心。釜飯や鍋は卓上で仕上げるスタイルで、「ごはんは最後に食べたい」「おかずと一緒に少しずつ味わいたい」など、自分の好みに合わせて火を入れることができます。
こうした自由度の高さも、細やかな配慮のひとつです。

朝食の一例
朝食は、放し飼い卵を使った厚焼き玉子や温かい味噌汁など、体にやさしい和食膳。朝の静かな時間にぴったりの素朴で滋味深い味わいが並びます。
また、スタッフが配膳のためにお部屋に入る際も、間仕切りを閉めればプライベートな空間を保つことが可能。希望があれば、食器は翌朝まで下げずにそのままにしておくこともできるそう。一人ひとりの過ごし方に寄り添ったサービスは、小さな宿ならではの魅力です。
温泉デビューにも安心。思いやりが詰まった湯処

貸切風呂なら安心して赤ちゃんの温泉デビューができます
松島屋 桃香の温泉は、肌にやさしい弱アルカリ性の源泉かけ流し。洗い場には3段階に切り替え可能なシャワーヘッドを備え、脱衣所には女将の高橋さんが選んだ、髪がツヤツヤになる高品質のドライヤーを設置。宿泊者の「ちょっとうれしい」を大切にする心遣いが感じられます。

大浴場「松寿」

貸切風呂「たまゆら」
浴場には内風呂のほか露天風呂を完備。露天では周囲の目線が気にならないよう目隠しが設けられており、安心してくつろげます。
家族やカップル、グループで利用できる貸切風呂は2か所あります。洗い場には抗菌仕様の畳が敷かれ、小さなお子さまでも滑りにくく安心です。ベビーバスもあるので、赤ちゃんの温泉デビューにもぴったりです。
地域とつながる宿へ。未来を見据えた新たな挑戦
高橋さんは今後、旅館という枠を越えて、地域と連携したさまざまな取り組みを広げていきたいと語ります。
その一つが、ロビー奥にある「茶房 matsumomo」の活用。今後は地域の酒蔵や果樹園と連携し、「福島の味」を体験できる発信拠点としてイベントなどを企画し、さらに魅力を高めていきたいと考えています。

加工室の一角(奥の部屋は厨房)
また、調理場とは別に館内に設けた加工室では、規格外の果物をスムージーやかき氷などに加工し、地元食材を活かした商品づくりを行っていく予定です。
この加工室は、地域の農家や学生などにも開放し、小ロットの6次化商品をつくる場所として、またシェアキッチンとしても活用してもらえたらと考えています。「新しいことに挑戦したい人たちの、小さなチャレンジを支える拠点にしていきたいんです」と、高橋さんは笑顔を見せます。
さらに、福島を代表する景勝地「花見山」とも連携し、温室栽培の花木を通年で客室に飾る「花見山部屋」体験プランや、ブライダルプランとしての販売も計画中です。
「残したいものを、宿泊プランというかたちで商品化していけばいい」というのが高橋さんの考え方。観光と農業、自然と宿を結ぶ、新しい形の地域連携を模索しています。

海外のお客様向けに、12月に客室を花見山の花で埋め尽くした
こうした取り組みを支える仕組みとして、高橋さんはクラウドファンディングの活用にも積極的に取り組んでいます。資金調達の手段であると同時に、地域の価値や挑戦を共有し、共感を広げる「ファンづくり」の場としての可能性も感じているそうです。
「旅館は、地域資源を伝える場にもなれる」。そう語る高橋さんの言葉には、松島屋 桃香を「泊まるだけの場所」ではなく、人とまちをつなぎ、福島の魅力が循環する「ハブ」のような存在へと育てていきたいという想いが込められています。
今後、松島屋桃香がどのように地域を巻き込み、新たな価値を生み出していくのか。その展開に期待が膨らみます。