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2つのルーツを引き継いで38年。噛みしめるほどにおいしい日進堂小林製菓の「麦せんべい」

福島市で愛され続けるソウルフード。一口食べれば後を引く旨味

小麦を原料とした薄焼きのせんべいというと、青森県八戸地方や岩手県北地方の名物「南部せんべい」を思い浮かべる方が多いかもしれません。が、福島市内にも、その「南部せんべい」の流れを汲む「麦せんべい」を長年作り続けている製菓店が複数あるのをご存じでしたか?

そう、麦せんべいは福島名物でもあるのです!

そのうちの一軒が、福島駅からほど近い矢剣町(やつるぎちょう)にある日進堂小林製菓さん。昭和63(1988)年4月の創業以来、代表の小林秀雄さんと奥様の恵子さんの二人三脚で麦せんべい一筋を貫いてこられました。

なんとも言えない旨味の秘密は……

見た目は素朴だけれど、パリッと割って口に含むとやわらかな甘み。噛みしめるほどに小麦の香りと旨味が広がり、気がつけばもう一枚、もう一枚と後を引く。それが日進堂小林製菓の「麦せんべい」の自慢です。

小麦の素朴な味わい麦せんべい。表面のピーナッツがアクセントに

創業38年といっても、秀雄さんが麦せんべいを焼き続けてきた年月は38年どころではありません。実は秀雄さん、創業前は、同じ場所で営業していた「名倉屋」という製菓店で10年以上、菓子職人として働いていたのだそうです。

北海道出身の恵子さんとは職場結婚。後に名倉屋が経営者の都合で閉店してしまった際、小林さん夫妻が、同店の人気商品だった麦せんべいの製造を引き継ぐことになったのでした。

箱入り(プレーン10枚入、変わり種9枚入)のほか、ご自宅用に7枚入りも

現在の商品ラインナップは、名倉屋時代からの伝統的なピーナツ入り「麦せんべい」のほか、かぼちゃの種入りの「パンプキン」、生地におからとゴマを練り込んだ「卯の花」の3種です。ピーナツ入りは他のメーカーさんにもありますが、他の2種は小林さんのオリジナルだそう。

「『パンプキン』は創業後すぐ、他との差別化を考えて開発しました。おからを混ぜた『卯の花』は、かなり長いこと試行錯誤しましたね。1年くらいかかったかな」

「卯の花(おから)」は表面の胡麻が香ばしい

取材前に全種類を試食した取材班の間で人気ナンバーワンは、他の2つより若干生地が柔らかめの「卯の花」でした。が、小林さんによると、一周回って伝統バージョンのピーナツ入りに戻ってくるファンも多いんだとか。

他メーカーさんの麦せんべいと比べて、あるいは「南部せんべい」と比べても、同じようなシンプルな材料で一見似たような製法なのに、どことなく味も食感も違うのがおもしろいところです。

コシが出すぎないよう手練りした生地をせんべい1つ分に分けて丸めていく

回転する焼型に生地をのせて焼いていく。窯の火加減にも熟練の技が要る

なんとも言えないこの旨味の余韻はどこから? と伺うと、お二人は顔を見合わせて「それは企業秘密です(笑)」。正確には、秘密というより、何も知らない素人に言葉で説明するのは難しいのでしょう。

小麦粉や砂糖といった材料そのものの違いだけでなく、分量・配合・練り具合、生地づくりから焼き上げまでの各作業のタイミングも独自のものがあるはず。たとえば夏場と冬場では生地の発酵の進み具合が異なり、気温や湿度によって微妙な調整が必要なのだそうです。

一見シンプルなお菓子だからこその奥の深さが、味わいの深さにつながるのかもしれません。

真っすぐ前しか見てこなかった38年

取材班が小林さんの「麦せんべい」を試食しながら抱いた素朴な疑問がありました。せんべいの裏には「福島名物 日進堂」の文字が浮かび上がっています。ということは、せんべいの焼型にその文字が刻まれているに違いありません。「日進堂」っていったい何だろう?

その訳には、創業時のご苦労が隠されていました。

見えますか? 両端に「福島名物」、中央に「日進堂」の文字

「せんべいを焼くこの機械は、創業時に日進堂さんという製菓店から譲り受けたものなんです。長らく麦せんべいを作ってこられたのが後継者難で閉店されたため、運よく格安で譲っていただくことができました。機械を分解して移設するのは大変でしたけれどね。その際、焼型の交換まではできなかったし、日進堂さんの思いも引き継ぐという意味で、うちの屋号に使わせていただいて今日に至ります」

勤め先だった名倉屋が閉店し職を失ったとき、小林さん夫妻はまだ小さい3人のお子さんを抱えていました。どうしようかと悩み、一時は別の仕事に移ることも考えたといいます。でも、以前の取引先を通じて、あの緑色(の包装紙)の麦せんべいが食べたいというお客様の声を聞いたお二人は、「あの味をなくしたくない、それなら自分たちで作ろう」と一念発起したのでした。

名倉屋時代から変わらない緑の包装紙

とはいえ、開業資金はほとんどなし。幸い、名倉屋の元経営者から以前の工場建物は借りることができたものの、中の機械類は一から調達しなければなりませんでした。なんとか安価に入手できないものかと、市内で閉店したせんべい店を探し回るなどした末、巡り合ったのが日進堂だったのです。

つまり、小林さんの「麦せんべい」は、名倉屋と日進堂という、2つの歴史ある製菓店のルーツを受け継いでいるのでした。

名倉屋での菓子職人時代は、注文に生産が追いつかず、24時間交代で麦せんべいを焼いたこともあるという秀雄さん。それから世の中は大きく変わりました。一時はたくさん存在した福島市内の麦せんべい店も、日進堂や名倉屋のように一軒、また一軒と閉店していき、いまでは片手で数えられるほどになっています。

「特に平成23(2011)年の東日本大震災と原発事故のときは大変でしたね。『福島名物』と書いてあるだけで全然売れなくなりました。次の試練は令和2(2020)年からの新型コロナ。お土産・お使い物の需要が減って、それまでは毎日のように全国に発送していたのがパッタリなくなって」。そして最近の資材価格の高騰。「正直、儲けはほとんどない」といいます。

名倉屋時代から一切味を変えていないというピーナツ入り麦せんべい。焼きたてもおいしいけれど1週間ほど寝かせると風味が増すとか

それでも諦めることなく麦せんべい専門で続けてこられた小林さん夫妻。その歴史の裏にどれほどのご苦労があったかは計り知れません。

そもそも昭和63年に開業を決意したとき、周囲からは「大変だからやめておけ」と言われたそう。今から10年前に移転が必要となり、60代半ばで小さいながらも新工場を建てたというのも、かなり勇気のいる決断だったはずです。

そんなお話も淡々と、「普通の人なら無謀だと思うこともあったでしょうけど、私たちは真っ直ぐ前しか見てこなかった」と笑顔で語るお二人に、取材班は背筋の伸びる思いがしました。

38年間掲げられている「日進堂小林製菓」の看板は、ファンを魅了し続ける確かな品質の証

根強いファンの需要に支えられ、秀雄さんは今も週1~2回ほど麦せんべいを焼いています。近年は、ネット通販では買えない小林製菓の麦せんべいを、調べてわざわざ県外から矢剣町まで買いに来る人もいるとか。また、ときには取引先から新しい味の麦せんべいの試作を依頼されることもあるそうです。

「これからも細く長く、なんとか続けたい」というお二人の言葉どおり、これからもずっとこの味が守られていくことを願ってやまない取材でした。

日進堂小林製菓 基本情報

日進堂小林製菓の商品は、福島市矢剣町の工場・店舗のほか、福島県観光物産館や道の駅ふくしま、東北自動車道の安達太良サービスエリア(上下)などでも購入できます。福島にいらした際はぜひ一度召し上がってみてください。

店名 日進堂小林製菓
住所 福島市矢剣町33-1
電話・FAX 024-531-7946(全国配送可能。FAXにてご注文ください。送料はお客様負担)
営業時間 10:00~16:00(ただし午後休みの場合あり)
定休日 不定休

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