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二級建築士ライターと楽しむ 福島市の名建築(2)庭園と建物が紡ぐ百年「御倉邸」

阿武隈川を借景に、四季を愛で、歴史を紡ぐ「御倉邸」の風雅な佇まい

日本には数多くの文化的建築物がありますが、ここ福島市には実に見応えのある建物が点在しています。

市民の暮らしを見守ってきた歴史的建造物を「読み解く」ことで、その街の魅力は一気に深まると思いませんか?
二級建築士兼ライターである私の街歩きのテーマはまさに【建物に刻まれた時間と物語を読み解き、街の魅力を再発見すること】です。

今回ご紹介するのは、昭和2(1927)年に建てられ2026年に100周年を迎える、旧日本銀行支店長役宅「御倉邸(おぐらてい)」です。

阿武隈川沿いに佇む昭和初期の邸宅

御倉邸の表玄関(中央)と内玄関(右)

かつて福島市は、阿武隈川の舟運によってにぎわいを見せた城下町でした。現在の福島県庁の場所には福島藩のお城があり、お城裏にあたる河川敷には、人や荷物の上げ下ろしを行う「河岸」が設けられ、経済や政治に関わる建物や米を収蔵した米蔵が並んでいました。

御倉邸は、旧日本銀行福島支店の支店長役宅と会議等公的利用を目的として、昭和2(1927)年に建てられた木造平屋建て。瓦葺で、中央から四方向に向かって傾斜している形状の寄棟屋根(よせむねやね)が印象的な、シンプルで均整の取れた見た目が特徴です。

阿武隈川を借景に広がる日本庭園は、時間を忘れて見入ってしまうほどの美しさがあります。

平成12年に福島市が建物を取得してから御倉町地区公園として一般開放され、市民憩いの場所として親しまれています。

御倉邸から眺める阿武隈川と弁天山

阿武隈川を一望できる絶好のロケーションに建つ「御倉邸」。 対岸の弁天山は、その美しさから「京都の嵐山」を思わせるほど。
四季折々の表情を見せる山々と、趣ある日本家屋、そして美しい庭園。 日常を忘れさせてくれるような、静かな調和がここにはあります。

暮らしの気配がそっと息づくたたずまい

玄関を抜けると、中庭に面した畳廊下が広がっています。この廊下には、中央が両端より高く盛り上がった「舟底天井」が採用されており、天井の低さを感じさせない造りになっていました。

船をひっくり返したような形が特徴で、開放感を演出しています。

廊下の先には、日本庭園に面した明るく広い和室があります。取材日はあいにくの曇り空でしたが、ガラス張りの縁側に囲まれた室内はとても心地よく、やわらかな光に包まれていました。

庭園の穏やかな景色は、眺めるだけで気持ちがやすらぎます。建築当時、会議などで利用したお客様もこの景色に癒やされていたのではないでしょうか。

和室の障子には、両開きの雪見障子が取り付けられていました。雪見障子とは、障子の下部にガラスをはめ込み、障子を閉めたままでも外の景色を楽しめる造りのことをいいます。

「冬の寒い日は、ここから雪景色を眺めていたのかな」と想像してみると、当時の生活が身近に感じられるので、ぜひ座って景色を眺めてみてください。

東日本大震災でも壊れなかった「奇跡の硝子(ガラス)」

縁側に使われている窓ガラスは、ドイツ製の手作り板ガラスです。手作りならではの微妙なゆがみが景色に味わいを与え、どこか懐かしい雰囲気をつくり出しています。

このガラスは東日本大震災でも割れなかった「奇跡のガラス」として知られています。

ガラスと桟の間にある適度な隙間(あそび)が、揺れを拡散したと思われます。もし割れていたら、今のようなゆらぎのある景色を見ることはできなかったと思うと、景色の見え方も変わってくるものです。

また、会議で使用した和室には、格式が高い筬欄間(おさらんま)が設けられています。部屋毎に彫り模様が違うので、じっくり眺めて違いを楽しむのもおすすめです。

欄間にある、緻密な菊と桐の模様

欄間にある、緻密な菊と桐の模様

居宅スペースの和室を彩る欄間(らんま)には、緻密な菊と桐の模様が彫られています。ここで注目すべきは、菊の花びらが「12枚」であることです。天皇家の紋章である「十六八重表菊(じゅうろくやえおもてぎく)」に敬意を表し、最高位の16枚をはばかって、日本銀行役宅としての格式に相応しい12枚のデザインが採用されています。

装飾一つにも人々の想いが込められていると考えると、時代を越えて心がつながるような感覚になりますね。

それから、当時の御倉邸には住み込みの女中さんがいました。各部屋に女中さんを呼ぶためのベルが残っていますので、探してみるのも楽しいですね。

正座でちょうどよく手が届く高さに設置されている呼び鈴

さらに、人力車の車夫が待つ「供待(ともまち)」や、当時は高級品で珍しかった固定電話がある電話室もあり、さすが日本銀行役宅の機能が備えられていることが感じられます。

門扉の脇にある供待

一つ屋根の下、二つの文化が共存していた数年間

御倉邸は和室からなる役宅ですが、一部屋だけ洋室があります。

この洋室は、第二次世界大戦後に占領軍が御倉邸の使用を希望したことから、和室から洋室に改装された部屋です。驚くべきことに、その後数年間、アメリカ軍の家族と日本銀行支店長の一家がこの同じ建物の中で共に暮らしていたといいます。

御倉邸は、ただの古い建築物としてではなく、激動の時代を生き抜いてきた「歴史の証人」としての体温が伝わってくるようです。歴史背景を知ることで、建物から受ける印象がより深まりますね。

市民の憩いの場として、やすらげる場所

御倉邸では、毎月第3月曜日にさまざまなイベントが開催されています。琴の演奏会やお茶会、民話語り、フリーマーケットなど、多彩な催しが行われており、地域の交流の場として親しまれています。

歴史的建造物でありながら貸し部屋利用ができますので、成人式や結婚式の前撮り、集いの会など、現代も活用されている場所です。

敷地内には「おぐら茶屋」という休憩処もあり、川のせせらぎを聞きながらひと息つくことができます。阿武隈川を眺めつつ、当時の暮らしに思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。

きっと、時間の流れがゆっくりと感じられるはずです。

施設名 御倉邸(旧日本銀行福島支店長役宅)
おすすめ 近くには隈畔(わいはん)と呼ばれる川辺があり、かつて年貢米を運ぶ舟運の起点となった船着き場が再現されています。
住所 福島県福島市御倉町1-78
TEL 024-522-2390
開館時間 10:00〜18:00 (おぐら茶屋は11:00~16:00)
休業日 毎週火曜日および年末年始
入館料 無料
駐車場 あり(約10台)※おもいやり駐車場あり
バリアフリー情報 こちらのページよりご確認ください
アクセス

【バス】
JR福島駅東口から福島交通バス荒井方面行き「荒町」下車徒歩3分

【車】
東北自動車道福島西ICより約10分

【徒歩】
JR福島駅東口より徒歩15分(約1キロメートル)

HP・SNS等

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