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二級建築士ライターと楽しむ 福島市の名建築(1)大正ロマン香る「福島市写真美術館」

細部に宿る美意識。和洋折衷の美しい装飾を訪ねる

日本には数多くの文化的建築物がありますが、ここ福島市には実に見応えのある建物が点在しています。

市民の暮らしを見守ってきた歴史的建造物を「読み解く」ことで、その街の魅力は一気に深まると思いませんか?
二級建築士兼ライターである私の街歩きのテーマはまさに【建物に刻まれた時間と物語を読み解き、街の魅力を再発見すること】です。

さあ、私と一緒に、のんびりと街を散策しながら、古き良き味わいある建物、そのディテールに隠された職人技や物語を楽しんでみましょう!

今回ご紹介するのは、福島市有形文化財に指定されている「福島市写真美術館(花の写真館)」です。

大正ロマンの香り漂う「福島市写真美術館」

(写真提供:福島市写真美術館)

福島駅東口から徒歩約20分、または市内循環バスで約10分の場所にある「福島市写真美術館」は、福島市民からは「花の写真館」として親しまれています。

写真文化をはじめ、さまざまな文化芸術団体の発表や交流の場として活用されている建物で、大正11年に「電気試験所福島試験所」として建築され、平成12年に福島市へ譲渡されました。

当時は電気試験所福島試験所として使用されていた(写真提供:福島市写真美術館)

「福島に桃源郷あり」と花見山公園を称賛し、福島市に何度も足を運んだ写真家の故 秋山庄太郎氏(1920~2003)の“想い”を象徴する場所として、平成15年4月に「花の写真館」として開館します。

この建物は、日本でも数少ない大正期の官衙建築(かんがけんちく:官庁や役所などの公共建物)として大変貴重です。東日本大震災で大きな被害を受け、一度は解体が決まりましたが、近代日本の歩みを伝える貴重な遺産であり、失うにはあまりに惜しいものでした。そこで歴史的価値から復旧が探られ、10年にわたる修復を経て2021年にリニューアルオープンしました。

建物の歴史的な重み、そして震災からの復興という物語は、この建物のディテールをより輝かせているはずです。

大正時代へいざなう空間

玄関の扉を開けると、そこはまるで大正時代にタイムスリップしたかのようです。

赤い絨毯が敷かれた階段は、映画のワンシーンを思わせます。靴を履き替えてそっと足を踏み入れると「ギシ、ギシ」と響く床の音が心地よく耳に届きます。

この床は「縁甲板張り」という技法で張られた床で、釘を見せずに板の凹凸をかみ合わせる「本実加工(ほんざねかこう)」と呼ばれる構造が特徴です。

震災からの復旧で床の大部分はリニューアルされていますが、年月を重ねて艶やかな光を放ち、味わい深い佇まいを見せています。

階段を上ると、まず目に飛び込んでくるのは大きな窓。

その向こうに広がる信夫山は、まるで額縁の中の絵のように季節の彩りを映し出します。紅葉の季節はもちろん、薄く霧がかかった朝の風景も神秘的で美しく、季節や天候ごとに変化する表情を楽しみに、何度でも訪れたくなります。

洗練された所長室

2階の所長室は、シンプルながらも上品で落ち着いた雰囲気が漂います。

大正建築ならではの和洋折衷のデザインが随所に見られ、細やかな装飾が空間を引き立てています。漆喰の天井を見上げると四隅には、植物をモチーフにしたような美しいレリーフが施されています。

他の部屋よりも少し格式を感じる佇まいから、「ここでたくさんのお客様をお迎えしていたのかな」と想像が膨らみます。

所長室は現在、秋山庄太郎氏の功績を紹介する展示スペースとして活用されています。秋山氏が初めて購入してもらったカメラも展示されており、偉大な写真家の出発点に触れることができました。

“わからない”からこそ惹かれる

実は、福島市写真美術館の建設当時の詳しい資料は残されていません。

官衙建築としての面が強く、文化財というよりは“まちに寄り添う建物”という認識をされていたのかもしれません。

その分、「これは何のモチーフ?」「この装飾にはどんな意味があるの?」と想像を巡らせながら建物を見る楽しみがあります。

例えば、正面玄関の真上に掲げられているレリーフは、獅子に見えたり、蔦が絡み合う唐草模様のようにも見えたり。

写真右上の天井四隅に見えるレリーフ装飾には、小さな穴が開けられています。これは単なる飾りではなく、天井裏換気口という実用的な機能を兼ねた、機能美あふれる意匠です。

建物内の随所に、建設当時のままの石がむき出しになっている部分が残されています。写真のドア下や扉の石組に見られますが、建物の内部に石造りの部分を残した意図までは、私たちにもわかりません。

答えがわからないからこそ、当時の情景や人々の暮らしを思い浮かべながら、建築士としての想像力をかき立てられます。

写真文化を広げる展示室

1階の展示室は、写真文化をはじめとするさまざまな芸術が発信される場となっています。取材日は「第25回 しのぶの里フォトコンテスト入賞作品展」が開催されていました。

県内外から寄せられた作品はどれも完成度が高く、「本当にアマチュアなの?」と思うほど見応えがありました。

また福島市写真美術館では、作品展のほかにも、大正ロマン漂う館内を貸し切ったコスプレ撮影会など多彩な企画も実施されており、写真やアートを通して、多くの人が交流できる場所となっています。

福島市の文化発展を見守る「福島市写真美術館」

「福島市写真美術館(花の写真館)」は、歴史を感じる建物でありながら、今もなお多くの人に愛され続ける“まちの文化拠点”です。震災を乗り越え、長い時間をかけてよみがえった姿は、福島市のたくましさや温かさを感じさせます。

レトロな雰囲気と大正時代の趣をそのまま残す空間は、写真好きな方はもちろん、建築や歴史に興味のある方にもおすすめ。訪れるたびに新しい発見があり、まちの魅力を感じさせてくれる場所で、ゆったりと時の流れに身をまかせながら、写真や建物の魅力を味わってみてはいかがでしょうか。

施設名 福島市写真美術館(花の写真館)
おすすめ 写真文化を初めとするさまざまな分野の文化芸術団体の発表・活動の場として、施設の一部を貸し出ししています。大正ロマンあふれる文化財を身近に感じることができる施設です。
住所 福島県福島市森合町11-36
TEL 024-563-4990
開館時間 9:00~16:30(最終入場16:00)
休業日 年末年始(12月29日~1月3日)
入館料

無料(企画展やイベント等により有料の場合あり)

貸し出しスペースあり

駐車場

敷地内駐車場
13台(おもいやり駐車場2台含む)
・駐車台数に限りがありますので、乗合せか公共交通機関等のご利用にご協力ください。

臨時駐車場
敷地内駐車場が満車の場合は、福島市保健福祉センター 第2駐車場をご利用ください。

アクセス

【車】
東北自動車道 福島飯坂ICから市街方面 国道13号経由 約15分

【バス】
福島駅東口より、市内循環バス「ももりん2コース」乗車約15分「福高前」下車後徒歩約1分。

【徒歩】
福島駅東口から徒歩約20分

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