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英語の授業で漫画を作る!? 福島医大の授業を見学しました
医大生が福島の魅力を発信! 英語で地元のお店を紹介する取り組み

福島県立医科大学(以下、福島医大)に通う学生たちが、英語で漫画を作っているって知っていますか?
「医大生が漫画?」ちょっと意外に感じますよね。でも、このユニークな取り組みには深いねらいがあります。それは、アカデミックな学びと社会貢献を両立させること。
学生たちは将来、医療の専門家として英語で論文を書いたり、患者さんと英語で話したりするシチュエーションも出てくるかもしれません。そんなときに使える「生きた英語」を学べる授業だそうで、実際に授業の様子を見学させてもらいました。
今回の舞台は、福島駅前にある福島医大の福島駅前キャンパスです。
目次
「英語の漫画」で福島のお店を紹介
百聞は一見に如かず。まずは、学生たちが授業で作っている漫画を見てみましょう。それがこちら!
楽しそうな雰囲気の漫画ですね!
男女2人のキャラクターが登場し、パン屋を紹介しています。この漫画で取り上げられているのは、商店街パセオ通り沿いにある『まちなか夢工房』。なんと、この授業で取り上げられる店はすべて福島市内にある実店舗です。
学生たちは自分たちの足で取材し、サービスを体感したり店員さんと話したりして、その店の魅力を英語とイラストで表現します。
この漫画を作っているのは、福島医大の福島駅前キャンパスに通う、保健科学部の学生たち。2年時に選択する英語の必修科目(ⅡA)で、言語学専門の安田尚子教授が受け持つ授業のカリキュラムです。
グループになって活動し、4月から前期の授業が終わる7月末まで、たっぷり時間をかけて1つの作品を作り上げていきます。
今回は特別に、学生たちが漫画の総仕上げをしている最終段階の授業にお邪魔させていただきました。和気あいあいとした雰囲気の中、積極的に意見が交わされていましたよ!
では、実際にどのように作っているのでしょうか。まずは指導している安田教授にお話を伺いましょう。
超有名ゲームを制作! 異色の経歴を持つ安田尚子教授

「よりコミュニケーションに役立つ英語教育を目指し、ことばが持つパワーについて皆さんと考えていきたいです」
一歩間違えれば、単なる座学になってしまうこともある大学英語の必修授業。しかし、安田教授の授業ではどの学生も積極的に取り組み、互いに学び合っているのが印象的でした。
「漫画を取り入れた英語の授業は、実は10年以上前からやっています。今回取材していただいた英語の授業は週に1回、1コマ60分しかない授業なんです。そのため『英語が嫌い、面白くない』ではなく、まずは楽しく学べる環境を整えました。私の授業の出欠確認は、人気漫画の英語版を使ったクイズで行っているんですよ」
英語を楽しく学ぶことを重要視する安田教授は、経歴がとってもユニーク。というのも、ゲームに詳しくない人でも知っている有名RPGゲームの制作に携わったメンバーの一人なのです。
「呪文やことばのパワーに興味があり、結果的に言語学者になってしまったのかもしれません」とにっこり笑う安田教授。
「私の行う授業では、状況に相応しい英語でのコミュニケーション方法を学びます。漫画を作る際に『ナレーションに学術英語、セリフには日常会話』を分けて使うことで、アカデミックと日常、それぞれに相応しい英語を学べるよう工夫しています。生徒には論文の執筆に必要なスキルのほか、チームワークやコミュニケーション能力なども身につけてほしいと思っています」

自由に書き込みできるサーバー上の辞書ツールを活用し、グループだけでなく、クラス全体で表現を共有する仕組みもある
伝え方は言語だけではない! 漫画から学ぶ表現の工夫
どうすれば相手に気持ちが伝わるか、どんな英語表現を使うのが適切か。ただ知っている単語や文法を使っていくだけでなく、コミュニケーションの奥深さについて指導を受けながら学べるのが、この授業の魅力です。
特に興味深かったのは、文章やコマ割りなどの見える部分だけでなく、登場人物のキャラクターも自分たちで考えていた点。
肌や髪の色、性別、立ち回りやジェスチャー、そしてその人物の性格に至るまで、緻密に話し合って決めていきます。当然、グループごとにまったく違ったキャラクターが生み出されます。たとえ同じ店の紹介だったとしても、それぞれ違った個性が出てくるのが面白い!
そして思いを込めて作ったキャラクターが、漫画の中で自分たちのお気に入りの店の中を動き回るワクワク感。学生のモチベーションもぐんと上がりますね。

専用のソフトを使いながら少しずつパソコンに落とし込んでいく
ではこの授業を受講している学生たちは、どのように感じているのでしょうか。お話を伺いました。
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元々漫画を読むのが好きなので、別の言語で読んでみるのも面白そうだと思いました。先生が英語漫画を読めるアプリを紹介してくれたので、課題研究のためによく読んでいます。知らなかった表現が使われていたりして、読んでいるのが楽しいです。
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今回の課題で取り上げたのは、お気に入りの素敵なお店です。限られたコマに載せる情報を選択してまとめるのは大変でしたが、たくさんの方に見ていただけると嬉しいです。お店の方にも喜んでいただきたいです。
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私たちのグループは、明るいカジュアルな子と、ていねいで面倒見のいい子が登場します。それぞれのキャラクターの違いは言葉遣いを変えることで表現しています。カジュアルな英語が学べるし、グループワークで皆と仲良くなれてうれしいです。
安田教授曰く、「言葉だけでなく、表情や仕草、画像や音声など、複数の表現手段を組み合わせて相手の意図を理解したり伝えたりすること(マルチモダリティ)が重要」だそう。
学生の作った漫画を見ると、キャラクターの動きと写真だけでも何となく伝えたいことが伝わってきます。
観光の側面から地域貢献への広がり ~そして地域医療への応用~
こうして出来上がった漫画は、市内の観光案内所やお店で配布される予定です。
ガイドブックには載っていないような、とっておきの隠れ家カフェや定食屋さん、そして住む人々の息づかい。観光客や外国の方にとって、地元の人がおすすめするお店の情報って何よりうれしいものですよね!
学生のフレッシュな視点で選ばれたお店は、きっとたくさんの観光客の心をつかむことでしょう。

今回の取材に協力してくれた学生たち(左から三戸愛結さん、岩並佳穂さん、渡邉はなさん、水戸菜月さん)。お忙しい中、ご協力ありがとうございました!
生きた英語を身につけるだけでなく、自分の学びが地域貢献につながる。福島の街を「自分たちの手で盛り上げる」という>やりがいがあるカリキュラムに、学生たち自身も楽しんでいる様子が伺えました。
実際に取り扱ったお店から安田教授の元に「お店に貼り出したい」「学生さんたちにお礼を言っておいてください」など、感謝の声が届くこともあるそう。
さらに後期の授業では、医療漫画を作るそうです。そちらもとっても興味深いですね!
学問と地域愛が融合。学生たちが漫画で発信する福島の魅力
学問と福島への愛。そして、未来への希望がぎゅっと詰まったこのカリキュラム。学生たちにとって医療という専門分野を超えて地域と向き合うことは、自分たちが住む地域と深く関わり、その一員として貢献できる良い機会。
地域社会への関心を育み、将来の進路を考える上でも貴重な経験になりそうですね。学生たちの描く漫画が、福島の魅力を世界に広めてくれることを願っています。