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「福島への誤解や偏見を払拭したい」福島市での国際会議開催にかける想い

福島の復興を国内外の人に見てもらいたいという願いを込め、来年6月に飯坂温泉で原子核物理国際会議を開催

青井 考 教授

原子核物理国際会議 組織委員
東京大学大学院・理学系研究科・原子核科学研究センター

教授 青井 考(あおい のり)氏

2026年6月、世界中から原子核物理学の研究者が集まる国際会議が、福島市で開催される予定です。3年に一度開催されるこの会議には、アメリカ、フランス、中国など15〜20の国々から、約400人の参加者が見込まれています

今年6月に現地視察に訪れた、組織委員会議長の一人である東京大学大学院 理学系研究科 原子核科学研究センター 教授 青井 考(あおい のり)氏に、福島市での開催を決めた理由などについてお話を伺いました。

そこには単なる実務的な選定を超えた、強い想いが込められていました。

原子核物理学とは

物理学の中にはいろいろな分野がありますが、「原子核物理学」とは、原子核の性質を研究する物理学の分野です。

原子核というと、すごく遠い存在、あるいは特殊な存在だと思われるかもしれませんが、我々自身も原子核でできていて、体重の99%以上は原子核の重さなんですね。
ですから、我々自身がどうできているのかということを調べる、そのような物理学です。

福島との縁

私たちと福島との縁は、2011年の東日本大震災に伴う東京電力 福島第一原子力発電所の事故をきっかけとしたものでした。

我々が研究している原子核物理というと、よく「原子力ですか?」と言われます。
確かに源流は同じなのですが、かなり初期の段階に、原子核自体を調べる基礎研究としての「原子核物理」と、エネルギーを取り出す技術を開発するための「原子力工学」という異なる分野に分岐し、発展してきました。

しかし、福島第一原発事故が起きたとき、異なる分野などと言っている場合ではありませんでした。世界中の人たちが「自分たちになにかできることはないだろうか」ということを考えたときだったと思いますが、我々もそうでした。

原子核物理の研究者は原子力発電所の構造には詳しくありませんが、放射線に関する基本的なことは知っています。そのような自分たちに何ができるかを模索した末に、避難してくる人々のスクリーニングや土壌調査といった活動を、早い時期から行っていました。
その後は帰宅が進む住宅の裏山の定点観測などを行っていました。

そういった活動や地元の方との交流を通じて得るものが多く、私たちも大変勉強になりました。

取材を行った飯坂温泉の「松島屋 桃香」には、原発事故当時、空間線量を測定するために京都大学原子炉実験所(現・複合原子力科学研究所)が開発した機器を積んで走ったスーパーカブが、今も大切に保管されていた

こうした貴重な体験は、教員だけではなく、次の世代を担う若い学生とも共有するべきだと考え、私が昨年まで所属していた大阪大学では2016年に「福島環境放射線研修」という学生向けのプログラムを立ち上げ、飯舘村で土壌や植物などの放射能測定や、現地の方との交流をはじめました。

最初の参加者は大阪大学の学生10人ほどでしたが、現在は他に13〜14の大学が賛同してくれて、国内外から約200人もの学生が参加するまでになりました。研修地も飯舘村に加えて大熊町、双葉町に広がっています。また、2024年8月には大熊町に「大阪大学 福島拠点」を開設しました。

一度福島を訪れた学生の多くが「もう一度行きたい」と言います。いまや彼らにとって福島は、かつてのようなテレビの向こうの場所ではなく、自分たちがお世話になった方々が暮らしている「知っている場所」へと変わったのです。

実際、繰り返し福島を訪れる学生もたくさんいます。研究者や学生が学び、成長させてもらう場として活動してきましたが、結果的に地域と関わる「関係人口」の創出に繋がり、ひいては福島の復興支援への貢献に少しでもなっているとすれば、私たちにとっても大変嬉しいことです。

青井教授(右)と、共に視察に訪れた組織委員の皆さん

青井教授(右)と、共に視察に訪れた組織委員の皆さん

福島で国際会議を開催する理由

会議の開催によって、参加者に福島で14年前に起きたことや、そこからいかにして復興をとげてきたかを見てもらいたいからです。

原子力や災害の専門家ではないけれども関係が深い原子核物理の専門家に、福島の現状を見てもらいたい。そして大きな国際会議を開催することで「原子核研究のプロが行っているのだから、福島は大丈夫なんだ」と多くの方に知っていただけるのではないかと考えています。

今回の会議では、浜通りでの視察も計画しています。参加者は、福島第一原発の立地自治体である大熊町や双葉町でも住民の帰還が始まっていることや、原発の中までバスで行って、防護服を着ずに原子炉建屋を百メートル足らずの距離で見られること、原発構内のコンビニで普通に買い物ができるといった光景を目の当たりにして、きっと驚くと思うのです。

福島のほとんどの場所が安全であること、それと同時に、未だ復興が思うように進まずに苦しんでいる人々もいるという事実や、中間貯蔵施設の抱える問題を自身の目で確認してもらい、それが広がる機会となるといいなと考えています

福島市飯坂町で開催するメリット

福島市での国際会議開催には、その他のメリットも多くあります。

一つは、開催地の魅力と現実的な受け入れ体制です。
今回会場となる飯坂温泉は、温泉地としてとても趣のある場所です。会議はもちろん研究の発表と議論が目的ではありますが、空いた時間に周りも観光してもらうことで、温泉という「日本らしさ」も外国人参加者にとっては大きな魅力となると考えています。

飯坂温泉のシンボル「鯖湖湯」

旧堀切邸

さらに400人規模の会議を受け入れられる施設があり、特に国際会議の開催で求められる「宿泊時の個室対応」について、旅館側が特別な配慮をしてくれたことが大きかったですね。

もう一つは、自治体側の協力体制と財政的な支援があることです。このような支援があることで、国際会議をより実現しやすくなりました。

福島市が国際会議観光都市としてさらに飛躍するために

震災との関係、震災遺構をどう活かしていくかではないでしょうか。

学生や研究者と話していて感じるのは、14年たった今でも、東日本大震災のことを知りたいと思っている人が数多くいるということです。しかし、浜通りに自分で行って現地を見るというところまで行動を起こすことは容易ではありません。

こうした需要を取り入れるために、福島市を、震災の事実や復興状況を見てもらうための「起点となる都市」の一つとして位置づけ、浜通りへのアクセス性を高めることが重要ではないかと感じています

また飯坂温泉は知っていても、そこに1,940人を収容できるホール(パルセいいざか)があるということは、ほとんど知られていないのではないでしょうか。

パルセいいざか外観

パルセいいざか外観

パルセいいざか 大ホール

コンベンションホール(大ホール)

さらに、先ほどもお話ししましたが、温泉旅館やホテルで個室対応も可能だということを皆さんに伝える必要があります。国際会議では個室対応が必須ですが、温泉では無理だろうと、最初から選択肢に入っていない可能性があります。
その他にも、国際会議ならではのさまざまな事情にていねいに相談に乗っていただけ、きちんと対応していただけるということを、広く伝えていくことが重要だと思います。

国際会議の実績が重なっていくことで、「福島市では会議が開催しやすい」ということを皆さんに知ってもらえるのではないでしょうか。そうして培った海外からの来訪者への対応力は、国際会議だけではなく、観光客の受け入れにもつながると思います

浜通りでも商業施設や宿泊施設が徐々に充実しはじめています。浜通りの自治体と福島市とが連携して、復興がさらに盛り上がればいいなと願っています。

村上瑞恵

レギュラーライター /編集・ SNS担当

村上瑞恵

地に足のついた生活がしたいと、2006年に都内から福島県にIターン。パソコン通信時代からのPCユーザーで、サイト運営やSNS運用などデジタル方面にわりと強いガジェットおたく。地域のICT化推進事業に携わったのち、Web制作会社で観光情報サイトの編集やSNSを活用した販売促進・ファンづくりを担当し、2022年9月に独立。休みの日はカメラ片手にバイクや車で出かけている。

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