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旅と暮らしの間に漂う、あんな話・こんな話(その5) ふくしま鉄道あれこれ

福島市在住9年の観光コンシェルジュx取材ライターがお届けするエッセイ

トンネル恐怖症?

突然、ガタンと音がして、電車が停まってしまいました。

ここはJR東北本線上り、南福島駅と金谷川駅の間にあるトンネルの中です。
「停止信号です、発車まで少々お待ちください」

列車がちょうど通れるだけの大きさのトンネル。黒い壁からわずかしか離れていない窓に、向かいの席に座った私が映っています。

若干、閉所恐怖症気味の私は、なんとなく嫌な心持ちになって目をつむり、それでも車内は空いていて十分な空間があることに感謝していました。これが満員電車で通路に立っている状態だったら、ちょっと大変だったかもしれません。

東京に住んでいたころの私は毎日、満員電車で通勤していました。特に朝のダイヤは超過密で、前の電車がまだホームにいるため、後の電車はギュウギュウに人を詰め込んだまま線路上で待つ、ということがよくあったのです。

その場合はアナウンスが入るからまだマシですが、怖いのは突然ガタンといって急停車するとき。もしも事故だったら、いつまで停まったままかわかりません。そういう状況で一度、軽いパニックを起こし、車内で過呼吸になってしまったこともあったなぁ。福島では満員電車に乗ることがないから、もうそんな心配はないけれど。

……などと思い出しているうちに、東北本線は再び走り出し、無事にトンネルを通過しました。幸い、事故ではなかったようです。

東北本線からの眺め。雲の向こうに吾妻山があるはず。

窓の外を見て

外界に出てしまえば、この辺りの眺望は最高です。福島駅から郡山方面へ向かう上り電車に乗ると、1つ目の南福島駅から先は、窓の外に長閑な田園風景が広がり、ところどころで吾妻山から安達太良山へと続く稜線を望むことができるのです。

自宅の窓から毎日見ているのと同じ山々なのに、ローカル線の車窓から見ると不思議と趣が異なるもの。私は普段、車生活ですが、ごくたまに東北本線に乗る機会があると、この眺めが楽しみで仕方ありません。苦手なトンネルがいくつかあるのも、山間の盆地と盆地をつなぐように敷設された鉄道なら当然のことで、そんなちょっとした“スリル”を含めて、プチ「鉄道の旅」気分を味わえます。

沿線に福島大学があるので、時間によっては学生たちもたくさん乗っています。こんな風景を見ながら通学なんてうらやましい! と思いますが、みんなたいていスマホに釘付けで、窓の外など目もくれません。彼らは卒業して福島を離れて初めて、故郷の美しさを思い出すのでしょうか。あるいは、毎日眺めて飽きない筆者のほうがおかしいのかな?(笑)

雲の向こうにうっすらと安達太良山。

鉄路はJRだけじゃない

福島市内にはもうひとつ、福島交通飯坂線という鉄道が通っています。福島駅から終点の飯坂温泉駅まで12駅23分。全長9.2キロの短い路線で、温泉に向かう観光客が利用するだけでなく、沿線住民の生活に欠かせない足となっています。通勤通学の時間帯に乗車すると、「満員」には程遠くとも、けっこうな乗車率に驚きます。

こちらは市街地の真ん中を走っていてトンネルはありません。ときどき住宅の軒先をかすめるようにして走るところもあり、初めて乗ったときは、若い頃よく乗った鎌倉の江ノ電にちょっと似てるなと思いました。江ノ電が江の島電鉄の愛称であるのと同様、こちらも「いい電」という愛称が付いています。

江ノ電と違って、いい電から海は見えませんが、かわりに目を楽しませてくれるのが、沿線のところどころに現れる果物畑。窓の外一面、とはいかないものの、桃やリンゴの花の時期には思わず、ほら咲いてるよと指をさしたくなります。そういえば、私が観光案内所のコンシェルジュとして働いているとき、「いい電の窓からリンゴの花が見られるところはどのあたりか」というお問い合わせを受けたことがありましたっけ。

もっとも、いい電の車内でも通勤通学の乗客は窓の外など気に留めていないようですけれど。

昭和レトロな「いい電」の福島駅ホームは阿武隈急行線(愛称「あぶきゅう」)と共用。あぶきゅうは福島と槻木(宮城県)を結ぶ第三セクターの鉄道で、こちらも地域住民の足です。が、筆者は9年間福島市に住んでいて一度も乗ったことがないため、エピソードが書けず。すみません。

踏切ストレスなし

いい電もJR東北本線も、福島市街は基本的に高架になっておらず、地上を走っています。ということは踏切もたくさんあります。車を運転していると、この踏切待ちがイライラの原因になったりしますよね。

実際、東京都内には、ときに40分以上も閉まったままなどという「開かずの踏切」もあるようですが、ここではそんな心配はゼロ。最も便数が多い朝夕の時間帯でも、いい電のダイヤは15分に1本。東北本線は約30分に1本ですから。それに列車の連結が断然短くて、たとえば山手線の11両編成に対して、いい電は2~3両、東北本線は2~4両。あっという間に通り過ぎてくれます。

これなら、住まい選びのとき、線路近くの物件でも騒音などはそれほど気にしなくていいかもしれません。私は福島駅の新幹線ホームが見える場所に住んでいますが、唯一の騒音といえるのは一日に数回「はやぶさ号」や「はやて号」が福島駅をトップスピードのまま通過する数秒間だけです。

4両編成のJR東北本線。

もうひとつの列車

同じ列車の音でも、貨物列車がガタンゴトンと線路をきしませて走る音には、なんとなく郷愁を誘うものがあるように感じます。

子どものころ、線路脇の公園で遊んでいると、たまに貨物列車がやってきました。大きな四角い箱が後から後から。一所懸命に数えてもいつも途中でわからなくなって、それはまるで永遠に続くように思われたものです。あるいは眠れない夜、暗闇の中で耳を澄ますと、遠くの線路から細く長く、ガタンゴトン、ガタンゴトン……。四角い箱がいくつ通ったのかな、と数えているうちに、また眠りに落ちました。

これと同じことを、今の私もときどきやっています。東北本線の線路をときどき貨物列車が走っているのです。

朝、市内を流れる荒川の土手を散歩していると、橋を渡る四角い箱の列に遭遇したり、夜中に目を覚ますと、静けさの中にあの鉄の重さを感じる鈍い音が響いてきたり。そのたびに、どこか懐かしい思いがこみ上げてきます。

地方には、鉄路の通っていない地域がたくさんあります。通っていても存続が危ぶまれる路線も少なくありません。たとえ便数は少なくとも、車両は短くとも、鉄道が走っていることのありがたさ。これも、私が福島市に住んで感じることのひとつなのでした。

中川雅美

ライター/福島市観光コンシェルジュ

中川雅美

神奈川県出身。東京都内で長年、翻訳・編集・広報の仕事に携わった後、2014年より福島県浪江町の広報業務を支援。2017年より福島市を拠点にフリーのライターとして活動、多数の取材記事を執筆。2019年からは福島市観光案内所の市民コンシェルジュも務める。著書に「五十路で単身地方移住してみた~九年間のふくしま暮らし日記」(東京図書出版)。

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