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知っているようで知らないミルクの秘めたるパワー! ふくしま乳(NEW)発見! 旅するミルク科学 <第3回>
6月は牛乳月間!ミルクについてのあれこれを語ります 福島の観光 × 乳製品 × 科学のコラボ

乳・乳製品のエキスパートである西村順子先生は、現在、日本大学 生物資源科学部 ミルク科学研究室の上席研究員として活躍されています。福島県伊達市出身で、福島大学 食農学類 客員教授も務めており、福島にとてもゆかりのある方です。
福島市で2023年に開かれた「酪農科学シンポジウム」が縁で、福島の旅がもっと楽しくなる「観光 × 乳製品 × 科学」のコラボレーション記事をシリーズで執筆いただいています。
第3回目は、「ミルクって実は奥が深い? ミルクについてのアレコレや牛乳月間について」のお話です。
牛のミルクは(ほぼ)完全栄養食
ミルヒホルスタイン@藤沢こと、西村です。今月は実験企画ではなく「知っているようで知らない、ミルクについてのうんちく」を語りたいと思います(「大学の先生あるある」です)。どうぞお付き合いください。
6月1日は「牛乳の日」で、6月は牛乳月間です。2001年に世界で定められ、日本では2007年から導入されたのですが、みなさんご存じでしたか? どうして6月かというと、すべての生命が満ちあふれる時期だからだそうです。
牛は生まれてから約1〜1.5年で出産ができるようになります(人よりものすごく早いですね!)。人工授精によって受胎すると、約280日(約9か月)で仔牛が生まれます(これは人と同じくらいですね)。
生まれてきた赤ちゃんは「抗体」というものを持っておらず病気にかかりやすいのですが、お母さんが出す初乳(最初に出てくる黄色っぽいドロっとした乳)には抗体が含まれていて、これを飲むことによって免疫力が上がり、病気にかかりにくくなります。
初乳は1週間から10日くらい分泌されます(これも人と牛は同じです)。初乳の分泌期間を経て、常乳に移っていきますが、この常乳こそが、私たちが飲用する「牛乳」です。
つまり、私たちが普段口にしているのは牛の「常乳」なんですよ。初乳と常乳は成分が大きく違っていて、法律(乳等命令)の関係上、出産後5日以内の乳は出荷できないことになっているので、スーパーマーケットの店頭に並ぶ……なんてことはありません。
こうしてみると、お母さんって偉大ですよね。牛には牛のお母さん、人には人のお母さんがいて、お母さんの出すミルクはその赤ちゃんにとってほぼ完全栄養食なんです。その準完全栄養食を作るお母さんの身体はかけがえのない大仕事をしていますし、その乳だけで赤ちゃんが育つと考えると、感慨深いものがありますよね。
余談になりますが「卵」も同じ、準完全栄養食です。卵1個(受精卵)から最終的にヒナが生まれてくるのですよ、すごいと思いませんか?
自然界には、完全にすべての栄養素を完璧に満たす完全栄養食は存在しないとされていますが、私たちが普段何気なく口にしている牛乳や卵が秘めたるパワーは計り知れないものです。ありがたくいただくことにしましょう!
牛も夏バテする?!
これからますます暑くなってきますが、気候のせいでバテてきますよね。実は牛も同じです。よく見かける白黒の牛(ホルスタイン種)はヨーロッパ北部が原産で、そもそも冷涼なところで改良されてきたので、最適温度は15℃くらいです。
ということは、牛は暑さにめっぽう弱く、人よりも夏バテしやすいかもしれません。
暑くなると、牛の餌の摂取量は減少し、水はたくさん飲用するようになります。そうすると、乳成分の変化や乳量の低下が起こります。
夏の牛乳がよりサラサラしていて、コクがないと感じている方はいませんか?
牛乳のコクは、主に乳脂肪によるものですが、無脂乳固形分(乳から水分と脂肪を除いたもの)も影響します。夏場は乳脂肪も無脂乳固形分も含量が低下するので、コクがなくなるのです。
私たちは暑いとエアコンをつけて快適に過ごせますが、牛の場合は送風をしたり、体を水で冷やしたりする程度なので、近年の夏の温度上昇は、本当にきついと思います。
暑くてもなお、ミルクを出してくれた牛をはじめ、酪農関係者、そして牛の餌となってくれた牧草や穀物類にも感謝する。それが6月の牛乳月間ではないでしょうか。
牛乳は生活習慣病の予防にも
6月になると薄着になる機会がグンと増えてきて、「お腹周りが……」とか「二の腕が……」と気になる方もいらっしゃるかもしれません。
牛乳って消化に時間がかかるため、食後の血糖値が上がりにくい「低GI食品」のひとつで、生活習慣病対策にうってつけの食品です。これは牛乳に含まれている糖源の約99.8%が乳糖(ラクトース)で、この乳糖が、グルコース(ぶどう糖)とガラクトースに分解されてから消化されるからなのです。
エネルギーになりやすい糖の代表に、果糖(フルクトース)、ぶどう糖、砂糖があり、これらの糖は消化管から血液内にすぐに吸収されてしまいます。そうすると血糖値が急上昇し、その後急下降する、いわゆる「血糖値スパイク」が起こりやすくなります。この血糖値スパイクは血管を損傷し、最終的には生活習慣病のリスクを高めてしまいます。
生活習慣病の予防には血糖値を急激に上げないようにすることが大事で、食事の最初に野菜を食べる「ベジファースト」は必須なのですが、牛乳を飲むこともいいと思います。
皆様の中には「牛乳を飲むと、お腹がゴロゴロして下痢してしまうので、牛乳が飲めない」という方もいると思います。そういう方は、牛乳を少し温めるとか、牛乳の代わりにヨーグルトにするなど、ちょっとした変化をつけても大丈夫です。
どうぞ自分に合ったやり方を見つけてください。牛乳をうまく取り入れて、健康的なボディを維持しましょう。牛乳アレルギーのあるときは無理せずに!
【告知】
夏休みの時期に、福島市観光案内所で「おにゅ~(乳)なイベント」を開催する予定です。皆様こぞってお誘い合わせの上、ぜひお越しくださいね! 詳細が決まり次第、観光ノートでお知らせします。
<おまけ>
さてさて、牛乳のウンチクを福島の観光にどうつなげましょうか……。暑くなる前に鬱陶しい梅雨がきますが、そんなときだからこそ思い切って外に出て、福島の観光などはいかがでしょう?
福島市の南部の松川町の「土合舘(どあいだて)公園」には、紫陽花が約40種、5,000株植えられてます。紫陽花散策で一汗かいたら、次はやっぱり温泉。
福島といえば温泉は外せません。福島の温泉は泉質が違う温泉がいくつもあるので、自分に合った温泉を見つけてみてはいかがでしょうか?
そして、もちろん最後は風呂上がりの牛乳。腰に手をあてながら福島県産の牛乳を飲んで、1日の疲れをとる! 考えただけでもワクワクしますよね。
6月は紫陽花、温泉、牛乳で決まり!!