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【ふくしまDC】土湯の記憶と新しい足跡を描く、アラフドアートアゲイン
震災から15年、ふくしまDCで復活した芸術祭のメッセージ
福島駅から車を走らせること約30分。荒川の清流沿いに宿が連なる土湯温泉は、古くから湯治場として愛され、こけしの故郷としても知られてきた場所です。
2026年春、その静かな山あいの温泉郷に、12年の歳月を経て芸術祭「アラフドアートアゲイン」が戻ってきました。
かつてこの地で開催された「アラフドアートアニュアル」の志を継ぎ、ふくしまDC(デスティネーションキャンペーン)の特別企画として2026年4月10日(金)~2026年6月30日(火)まで開催されます。
タイトルの「アラフド」とはこの地方の方言で「新踏土」と表記し、「新雪を踏み固めて新しい道を切り拓くこと」を意味します。
震災から15年、震災で一度立ち止まってしまった福島の地を、どのように踏み固め、どこへ向かうのか。主催者ユミソンさんへのインタビューと現地取材を通じて、その想いと見どころを紹介します。
目次
【コンセプト】風が運んだものと、残された場所

本展の副題に掲げられた「風に舞う歴史の天使」という言葉には、土湯の、そして福島の消し去れない記憶が刻まれています。
2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故。目に見えない放射線の「風」は、地形や天候によってその行き先を変えました。土湯温泉は地形的な条件から、放射線量が低かったエリアです。それでも「目に見えないもの」への恐れや、自粛すべきという世相から、客足は容赦なく遠のき、いくつもの旅館や土産店がのれんを下ろしました。
「アート作品を見ながら街を見るキッカケが作れたら。そこから街のこと、地域のこと、福島県全体のこと、今の日本の状況について——政治的な話や経済の話だけでなく、抽象的に考えることができたら嬉しいです」
そう、芯のある口調で語るユミソンさん。
東日本大震災以降も、日本各地で災害は後を絶ちません。福島が経験した「喪失からの再生」は、今や日本中のどこでも起こりうる問いへと変わりました。この芸術祭は、その問いの「少し先を歩く存在」としての福島の今を映し出す、静かな鏡でもあるのです。
【作品・会場紹介】伝統と現代、そして「ルーツ」が交差する場
かつての「アラフドアートアニュアル」では主に旅館空間を活用していましたが、今回の再始動ではさらに視野を広げ、街全体の活性化という視点を強化しました。
国内外のアーティスト19組による23作品が、足湯や旅館、土産店、寺院、カフェなど15の会場へと静かに溶け込んでいます。
今回は、土湯温泉まちおこしセンター「湯楽座(ゆらくざ)」を起点に、温泉街をぐるりと回遊するルートを歩いてみました。
まつや物産店

温泉街の中心に位置する、老舗土産店。土湯を代表するこけし工人・阿部国敏氏と、ストリートや公共空間を活動の場とするアートコレクティブ「SIDECORE」による作品が展示されています。
伝統と現在が接続された瞬間がレトロな店内に自然に溶け込む、土湯ならではの面白い空間。「どれがアートで、どれが工芸品?」と思わず口から出てしまいました。

注目は、竹久夢二がヨーロッパを訪れる際、国敏氏の曾祖父・阿部治助氏のこけしを鞄に忍ばせていたというエピソードから着想したトートバッグ。こけし用のポケットが付き、プリントはシルクスクリーンで一点ずつていねいに刷られています。
まつやのロゴを活かしたSIDECOREらしい茶目っ気のある線画が、歴史とユーモアをさりげなく繋いでいます。

ここでは紹介しきれないくらいたくさんの作品、そしてこけしが並んでいるので、ぜひ現地へ足を運んでみてください。「アラフド」にちなんだ映像作品もありましたよ。

土湯伝統こけし工人の阿部国敏氏とお母様、そしてSIDE COREの作品《棚からガイコツ》(画面右手前、左奥)
つたや旅館跡地(まつや物産店横の駐車場奥)

《エスケープ》ナナウミルカ NANAUMI Ruka/《WRECKAGE》松下徹
福島出身のナナウミルカ氏による作品は、石や建物の破片を用いて、かつての旅館跡地という「消えた場所」に向き合っています。
また、足元を囲むコンクリートの壁には、2014年のアラフドアートアニュアルでSIDE CORE 松下徹氏が手がけた壁面アートが、今も静かに残っています。
十数年の歳月を経て風化しながら残り続けるアートと、そこへ重なる若く新しい表現。時間の堆積そのものが、ひとつの作品のように見えてきました。
興徳寺(こうとくじ)

《舞いつづく》水川千春 MIZUKAWA Chiharu
つたや旅館跡地の裏手、坂道を少し上った先に現れるのが興徳寺です。温泉水や海水を使った炙り絵と、建物・木材・和紙・着物が持つ柔らかな色味の調和を、自然光の下で楽しめます。取材当日は椿の花が鮮やかに咲き誇っていて、静謐な空間にそっと彩りを添えていました。
足湯「土ゆっこ」

《差室–還元と堆雪の(を)シンシンフットバス 》阿部乳坊 ABE Nyubo
興徳寺から裏路地をぐるりと回ると、大きな木造の階段が見えてきます。横手には巨木が立ち並び、流れる川の音が耳に届く……、そんな場所に佇む足湯が「土ゆっこ」です。
足湯を囲うように設えられたインスタレーション作品は、ただ眺めるだけでなく、実際に湯に浸かりながら全身で体感できるアート。週末には予約制のお茶会イベントも開催されており、人との繋がりや会話から得られる“なにか”も醍醐味です。
アトリエのはら
「土ゆっこ」から坂を少し下りメインストリートへ戻ると「アトリエのはら」に到着します。
「土ゆっこ」のインスタレーション作者・阿部乳坊氏とのコラボレーションスイーツを販売しているお店で、レジ奥の棚には《差室—還元と堆雪の(を)シンシンフットバス》のプロトタイプも展示されています。スイーツや飲み物をテイクアウトし、「土ゆっこ」で楽しむこともできますよ。

いったんお店を出て、向かって右手の裏へ進むと、怪しげなピンク色のネオンと、「どうぞ登ってください」と言いたげな丸太が出迎えてくれました。
覗いてみると、最近ではなかなかお目にかかれなくなったタイル張りの乾いた浴室が。
「(建物の裏手に)入っていいのかな? 勝手に覗いていいのかな?」と躊躇う感覚ごと、アートとして楽しめるユニークな空間です。

《おばちゃん 今日ちょっと素敵だね あら ありがとう》《泰平物語〜土湯温泉編》施井泰平 SHII Taihei
足湯「月のゆぶじぇ」と里見屋

荒川を渡り、足湯「月のゆぶじぇ」の隣に位置する「里見屋」は、数年前に営業を終えてしまった土産物屋です。かつての店先では今、福島在住の作家・鉾井喬氏とアイスランドのアーティストたちがオンラインで繋がり、表現を重ねていく国際プロジェクトが展開されています。
地震、火山、そして温泉。土湯とアイスランドが持つ驚くほどの共通点。遠く離れた異国と、大地の熱を通じて繋がっているという実感が、ふとグローバルな視野を開いてくれます。

残された売り物(値札の付いた“またたび”やサルノコシカケ)や、観光地のお土産の定番だったペナントがそのまま残る、不思議な空間。鉾井氏は毎週末ここで制作を行っており、自由に見学することができます。

原郷のこけし群 西田記念館
土湯温泉から車で約7分、アンナガーデン内にある「西田記念館」にも本展の作品が展示されています。「心のふるさと」と称されるこの施設で展開されるのは、「ふるさと」をテーマにした作品たちです。
ブリヤート共和国出身のナタリア・パパエヴァ氏、紛争を日常に抱える地域にルーツを持つアリサ・ベルゲル氏、統合失調症の妹を持つ飯山由貴氏。家を失い、場所を追われ、あるいは心の居場所を見失った彼女たちの作品は、「帰るべき場所」について深く問いかけてきます。
震災と原子力発電所の事故によって「ふるさと」を脅かされた福島の記憶とも静かに共鳴し、観る者の心に静かなさざ波を立てることでしょう。
【駐車場の案内】観光交流センター 湯愛舞台(ゆめぶたい)

自家用車でのアクセスなら、温泉街に入ってすぐの場所にある「湯愛舞台(ゆめぶたい)」の利用がおすすめ。建物に向かって右手にある階段を利用すれば、徒歩5分ほどで中心街まで出られます。
また「湯愛舞台(ゆめぶたい)」にも3組のアーティストによる作品が展示されており、本展のグッズコーナーも設けられているので、ぜひお立ち寄りください。
日常に溶け込み「気づき」を与えるアート
インタビューの最後、ユミソンさんはこう語ってくれました。
「アートはなくても生きていけるけれど、なくなると『あっ、』と気づくものなんです」
その言葉が示すように、アラフドアートアニュアルは「見て! 買って!」という消費的な体験を促すイベントではありません。アートに触れながら温泉街を回遊し、土湯を、そして福島全体を知ることで、日常の豊かさを取り戻してほしい。そんな祈りにも似た想いを、芸術祭全体がまとっています。
静かに、けれど確かにそこに存在する作品たちは、「地域の記憶」や「日常の尊さ」を、私たちにそっと手渡してくれるように感じました。
12年前に刻まれた足跡の上に新しい雪が積もり、それをいま再び踏み固めていく。関わる人ひとりひとりの一歩が、これからの新しい道(アラフド)を生み出していく。そう感じさせてくれる“なにか”が、土湯温泉にはあります。
ぜひ現地に足を運び、温泉街の新しい「風」を肌で感じながら、あなたの足跡も刻んでみてください。
